日本の伝統工芸である和紙。その繊細な美しさ、温かみのある質感、そして驚くほどの多様性は、古来より人々を魅了してきました。しかし、一口に和紙と言っても、その製法は一つではありません。職人の手によって一枚一枚丁寧に漉かれる「手漉き和紙」と、機械の力を借りて効率的に生産される「機械漉き和紙」。どちらも和紙としての魅力を備えつつ、それぞれに異なる特徴を持っています。
前回の記事では、手漉き和紙が抱える厳しい現状と希望についてお話ししました。今回は視点を変えて、手漉き和紙と機械漉き和紙の違いに焦点を当て、それぞれの強みや、製法による見た目の違いについて解説していきます。それぞれの和紙が持つ特徴を知ることで、和紙選びの視野が広がります。
また弊社ウェブサイト内の「和紙のQ&A」コーナーでは、和紙に関する様々な疑問にお答えしています。和紙についてもっと知りたい、選び方がわからない、そんな時はぜひそちらも参考にしてみてください。
手漉き和紙と機械漉き和紙の違い
それぞれの強み
手漉き和紙と機械漉き和紙は、一見すると紙の質感や風合いが違うだけのように思えるかもしれません。しかし、その違いは見た目だけにとどまりません。それぞれの製法による強みをご紹介します。
手漉きの強み
手漉き和紙の歴史を振り返ると、顧客のニーズに柔軟に対応してきたことで、実に多種多様な和紙が生み出されてきたことがわかります。基本をしっかりと身につけた熟練の職人は、紙の寸法や厚みはもちろん、質感や色合い、柔軟性、墨の付き具合や滲み具合までも自在に漉き分けることができます。これが本来の手漉き職人の姿であり、機械漉きでは難しい小ロット生産への対応力も併せ持つ、手漉き和紙の最大の強みと言えます。価格は使用する原料や処理方法によって大きく変わりますが、一般的に機械漉きに比べると高価になります。
- 多様なニーズに応じた少量生産が可能
- 職人の技と感性が生み出す、独特の風合いと美しさがある
ある手漉き職人さんいわく「無理な大量生産はせず、本物の和紙を必要としている人に届けたいという気持ちで漉いている」とおっしゃっていました。原料の具合などをみながら、良い和紙が漉けるように原料処理を行い、簀桁(すけた)という道具を使って和紙を漉いていきます。和紙の厚みなどはこれまでの経験などをもとに漉いていきますが、1枚ずつ漉くので、どうしても微妙に異なることもあります。
機械漉きの強み
機械漉きは、かつて増え続ける和紙の需要に対応するために洋紙の製紙技術を参考に生まれた、手漉きとのハイブリッドとも言える製法です。同様の品質のものを大量生産できる点が大きなメリットで、手漉き和紙に比べて表面がなめらかに仕上がる傾向があり、印刷適正に特化した和紙を漉くことも可能です。価格は使用する原料や処理方法によって大きく変わりますが、一般的に手漉きに比べて安価になります。
- 均一な品質で、大量生産が可能
- ロール状に仕上がるため、壁紙や障子紙のような大きな一枚物にも対応可能
機械漉きであっても、原料は自然のものである以上、全く同じものはできません。手漉き和紙に比べれば、その揺らぎや厚みなどの変化は少ないですが、それでも完全に均一ではありません。また、メーカーによって得意な和紙の種類や分野が異なります。
見た目の違いを比較
原料や製法が異なるため厳密な比較は難しいですが、ここでは、見た目でわかる違いを写真で比較します。今回使用する和紙は、手漉き、機械漉きともに楮100%のものです。手漉き和紙の乾燥方法には、板干しと鉄板乾燥がありますが、今回ご紹介するのは伝統的な板干しで仕上げたものです。
- 板干しとは:漉いた和紙を専用の板に貼り付け、天日で自然乾燥させる伝統的な手法。
表面の質感の違い
手漉き和紙は、一枚一枚、職人の手で漉き上げられるため、表面に繊維の流れや、板干しによる独特の凹凸(板の目が転写されたもの)があり、温かみを感じさせます。一方、機械漉き和紙は、均一な厚みと滑らかな表面が特徴で、すっきりとした印象を与えます。
耳付部分の違い
耳付き(みみつき)とは、和紙の縁に自然にできる薄い繊維の重なりのことです。 手漉き和紙と機械漉き和紙では製造方法が異なるため、耳のでき方も異なります。手漉き和紙は4辺すべてに耳ができますが、機械漉き和紙は製造過程で長辺を切り落とすため、耳が付いているのは2辺のみです。
それぞれの魅力を楽しもう
顧客の細かな要望や作り手のこだわりを反映させやすい手漉き和紙と、安定的に量産できる機械漉き和紙。それぞれに良さがあり、どの視点から評価するかによって、どちらが良いかという結論は変わってきます。
現代社会では、規格化され均一化されたものに囲まれて生活しています。だからこそ、手漉き、機械漉きに関わらず、完璧に近づけば近づくほど、そこに込められた職人のこだわりや気遣いなど、人の気配が感じられるものに惹かれるのかもしれません。
和紙には作り手の想い、そして歴史が織り込まれています。その想いや歴史が、和紙という媒体を通して、私たちの心や感性に直接語りかけてくる。これは手漉き和紙でも機械漉き和紙でも感じられることなのです。
技術の進歩とともに、和紙の製法も日々進化しています。手漉きと機械漉きの垣根を越え、より高品質で個性豊かな和紙が生まれる可能性も秘めています。例えば、ある手漉き職人さんは、本革を粉末状にして和紙に漉き込むという、これまでにない独創的な試みを行っています。伝統を守りつつ、未来を見据えた和紙作り。それは、私たちに新たな感動と発見をもたらしてくれるに違いありません。
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1897年創業、1世紀以上にわたり和紙と共に歩んできた当店が、お客様からよくいただくご質問にお答えします。和紙の歴史や特徴、選び方、劣化を防ぐ方法など、専門知識と経験に基づいた情報をお届けします。和紙について知りたい方は、ぜひご覧ください。
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