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石川県金沢市にある和紙専門店「紙あさくら」の公式ブログです。暮らしを彩る様々な和紙インテリアや制作事例などを発信しています。

和紙の未来を共に考える-危機に瀕する和紙産地に希望の光を見出す

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先日、弊社ショップ兼ショールームにご来店のお客様から「和紙の未来はどうなると思いますか?」という質問をいただきました。とてもストレートなご質問だったので、少しドキッとしたのを覚えています。

目次

和紙産業の危機と希望

伝統工芸である和紙作りを取り巻く状況は、近年厳しさを増しています。原材料や光熱費の高騰に加え、和紙づくりの担い手である紙漉き職人だけでなく、紙漉き用の道具を作る職人、そして原料の世話をする人々までもが、高齢化という課題に直面しています。こうした状況は、和紙産地全体の存続を揺るがす深刻な問題であり、機械漉き和紙を漉いているところも例外ではありません。

横野和紙の職人、上田さん
日本で唯一、箔合紙(はくあいし)を漉く、横野和紙(岡山県津山市)上田手漉和紙工場の上田さん。
横野和紙は上田さん家族が営む1軒だけとなりました。

ご質問の「和紙の未来はどうなると思いますか?」という問いに率直に答えるとすれば「このままでは、ほぼ確実に和紙を漉くことができる職人が減少し、産地そのものが消滅してしまう地域が拡大していくでしょう」となります。

しかし、だからといって和紙の未来が閉ざされているわけではありません。むしろ、今こそ和紙の新たな可能性を切り拓くチャンスなのかもしれません。今回は、和紙の未来が明るいものになるために、どのようなことができるのか、皆さんと一緒に考えてみたいと思います。

和紙産地の現状を知る

和紙産業が直面する課題を理解するためには、過去から現在に至るまでの変化を把握する必要があります。特に、手漉き和紙の生産現場における変化は、和紙産業全体の縮図と言えます。

手漉き職人の減少

1901年には全国で約68,562軒の手漉き和紙製造所が存在していましたが、このときをピークに徐々に減少し、1962年には3,748軒となりました。さらに、2001年にはその数が約392軒にまで減少しました。1962年から2001年までのわずか半世紀の間に、実に約9割の手漉き和紙製造所が姿を消したことを意味します。現在でもその減少は続いており、手漉き和紙製造所の衰退は深刻な状況にあります。

職人の高齢化

残された手漉き和紙製造所でも、後継者不足や高齢化が深刻化しています。多くの職人が60代以上で、若い世代への技術継承が進んでいない現状があります。このままでは、貴重な技術や伝統が失われてしまう可能性も否定できません。

手漉き和紙製造所が減少した理由については、上記のほかにも考えられます。詳しくはこちらの記事「和紙のQ&A:なぜ手漉き和紙は少なくなってしまったのでしょうか?」をご覧ください。

箔合紙(横野和紙)
上田手漉和紙工場の上田さんが漉く箔合紙は、仕上がった金箔を一枚ずつ挟んで保管する際に使われます。
皆さんもよく知っている「あぶらとり紙(箔打ち紙)」とは異なり、金箔を保護し、その美しさを保つための特別な和紙です。

全国の手漉き和紙の産地の一覧は、こちらの記事「和紙のQ&A:日本の和紙の産地はどこですか?」でご覧いただけます。記事作成時点(2016年)では47都道府県のうち、41の都道府県で和紙の産地が存在していましたが、その後、状況は変化している可能性があります。

現在残っている産地でも、場所によってはわずか1軒しかなく、後継者もいないケースも少なくありません。一度途絶えてしまった産地を復活させることは、非常に困難です。若者が都会から移住し、産地を復活させた例もありますが、これは様々な条件が重ならないと実現しない、極めて稀なケースです。

手描きで制作した全国和紙産地マップ
弊社ショップ&ショールームの2階にある全国和紙産地マップ

課題を乗り越えるために

和紙産業が直面する課題を理解した上で、どのように対応していくべきでしょうか。ここでは、時代の変化に対応するための具体的な対策について考えてみたいと思います。

二俣和紙を漉いている斎藤さん
かつて加賀藩の御料紙としても選ばれた、由緒ある二俣和紙(石川県金沢市)を漉く職人、斎藤さん。
現在、二俣和紙の生産を続けるのは斎藤さん家族を含め、わずか2軒のみとなりました。

時代の変化に対応する

時代の変化に対応し、生き残るためには、和紙業界も積極的に変化を受け入れる必要があります。市場のニーズを的確に捉えた商品開発はもちろん、将来を見据えた新しい挑戦も欠かせません。異業種とのコラボレーションを通じて、和紙の魅力を再発見するような取り組みも、新たな価値を生み出す可能性を秘めています。

しかし、その変化の中にあっても、歴史の中で受け継がれてきた「変えてはならない本質」を守りつつ、新しい事にも挑戦する、そのバランスをとることが大切です。例えば、石川県の伝統工芸である加賀友禅でも、本式の技法を簡素化した後、再び元に戻そうとした際に、当時の技術やレシピなどが失われており、本来の色合いを再現できなくなってしまった工房もあると聞きます。このように、どちらか一方に偏ることなく、伝統と革新を両立させることが、和紙の未来を切り拓く鍵となるのではないでしょうか。

適正な価格設定

そして、忘れてはならないのが適正な価格設定です。残念ながら、現代社会において和紙は生活必需品ではなくなってしまいました。しかしだからこそ、その価値に見合った価格で販売することが大切です。安易な価格競争に陥ることなく、和紙の持つ高い品質と職人の技術を正当に評価する価格設定が、和紙産業の将来性を確保する上で不可欠です。

現状、手漉き職人の多くが、価格に十分反映できているとは言い難い状況です。特徴のある和紙を漉いている職人でも、市場の反応を気にして、思い切って価格を上げられない現状があります。適正な価格設定は、職人の生活を守り、技術の継承を可能にすることにも繋がります。和紙の価値を正当に評価し、職人の技術に見合った適正な価格を設定することが、和紙産業の未来を支える重要な一歩となるでしょう。

海外への積極的な進出

国内市場の縮小を補うためには、海外への積極的な進出も必要です。実は既に海外進出を果たしている職人さんもいらっしゃいます。以前から海外では日本の和紙に対する関心が高く、文化財などの修理修復だけでなく、写真家が作品を和紙に印刷するなど、新たな用途も生まれています。

特に、海外では和紙の見た目だけでなく、その歴史や文化的な背景にも深い興味を示してくれる傾向があります。これは、私たちが思っている以上に、和紙は世界から見て特色があり、特別であり、価値のあるものだということを示しています。この点を活かし、和紙のストーリーを効果的に発信することで、海外市場でのさらなる需要拡大が期待できます。和紙は日本文化の象徴として、世界の人々を魅了する可能性を秘めているのです。

二俣和紙(石川県金沢市)
斎藤さんが漉く加賀奉書は、厚手でコシがありながらも柔らかさを感じる、独特の風合いが魅力です。
弊社のお店でも人気の和紙の一つとなっています。

和紙と共に歩む弊社の取り組み

弊社では和紙の未来を明るくするために、様々な取り組みを行っています。以下はその一例です。

魅力的な商品の開発

伝統的な技法を活かしつつ、現代のライフスタイルに合わせた新しい和紙製品を日々開発しています。職人が作る和紙とのかけはしとなり、和紙の魅力をより多くの人々に伝えていきます。

正しい情報の発信

和紙に関する正しい知識や情報を積極的に発信し、和紙への理解を深めてもらうことで、和紙の価値を再認識していただく機会を増やしていきたいと考えています。自社サイト内にある和紙Q&A集も、実はネット上で見かけた間違った情報や、誤解を招く情報がきっかけで始めたものです。

職人との連携強化

和紙職人の技術継承を支援し、職人さんたちの創造性を活かせる環境づくりや、需要を創出することで、和紙産業全体の活性化を目指します。具体的には、漉き手さんのOEM製品作りなどを手掛けたり、職人さんが困った時に弊社が力になれるよう、積極的にサポートしています。

桂離宮をモチーフにした襖(楽紙庵)
生活空間に和紙をもっと-そんな私たちの想いを、1995年にカタチにしたのが楽紙庵
こちらの市松模様には、斎藤さんに漉いていただいた二俣和紙が使用されています。

まとめ

和紙業界は今、大きな転換期を迎えています。これは、新たな可能性への扉が開かれた瞬間でもあります。和紙の奥深い魅力と価値、そして正しい情報が広く伝わることで、和紙は再び注目を集め、その未来は明るいものになっていきます。

機会があれば、ぜひお近くの和紙の産地に訪れてみてください。和紙作りが盛んな地域は基本的に自然豊かな場所が多いので、良い気分転換にもなります。職人の技を間近で見たり、紙漉き体験をしたり、あるいは手漉き和紙を一枚購入するだけでも、その産地にとっては大きな支えとなります。

弊社では、今後も魅力的な商品開発や情報発信を通じ、和紙業界のさらなる発展に貢献してまいります。
この記事を通して、読者の皆様が和紙の未来に希望を抱き、その魅力を再発見していただける機会になれば幸いです。

実店舗の創作和紙はほとんどが一点物。新たな発見やお好みの和紙に出会えるかもしれません

ショップ&ショールーム 紙あさくら

  • 920-0841 石川県金沢市浅野本町1-10-8
  • TEL:076-252-6632
  • 営業時間:10:00~18:00
  • 定休日:日曜日/祝日/年末年始
  • 駐車場:店舗前3台と、道路を挟んだ斜め向かい側に専用駐車場(約5台駐車可能)あり。
  • 最寄り駅からの所要時間:金沢駅から徒歩約20分。タクシーで約2分
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コメント

コメント一覧 (2件)

  • お邪魔いたします。
    古くからある和紙。
    伝統的な手法で作り上げる日本伝統な物ですね。
    私が勤める花業界も跡継ぎ問題があり、年々後継者が居なくて廃業する生産者が多く居ます。
    新規の生産者を探すのは至難の業の様です。
    実は、私の兄は生産者です。
    突然の変異で、ドドナエアという植物に斑入りが出来て、特許を取りました。
    ドドナエアのスノーマウンテンという品種です。
    和紙の製品にも何か特許を取るような物はありませんか?
    手法だったり、混ぜ込む物だったり、他では真似の出来ない手法だったり、特許を取って価値を上げる方法が有ればと思います。
    今までに作られた照明器具、旅館に置かれているランプ、
    雨に強い和紙等。
    和紙で出来たブラインドも素敵ですね。
    どの業界も人工の減少に伴い後継者が減り、死活問題です。
    なくさないで欲しい業界のひとつてす。

    • いつもありがとうございます。大変励みになっております。
      花業界でもそのような問題があったのですね。全く知りませんでした。いつも心を和ませてくれるお花ですが、気候や台風などの自然災害の影響を受けることもあるでしょうから、美しい花を届けてくれる生産者の方々には本当に頭が下がります。やよい様のコメントから「守り」ではなく「攻め」の姿勢で、様々なことを試してみるチャレンジ精神が大切だと改めて感じました。特許を取るということは、それ自体に目的もありますが、見方を変えれば、それだけ新しいことに挑戦した証でもありますね。後継者問題で悩むどの業界にも必要なことだと思います。

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