先週末、お付き合いのある五箇山和紙「悠久紙」の宮本さんから、雪晒し(ゆきさらし)や紙漉きの現場体験を行うとお誘い頂いたので行ってきました!
豪雪地帯の五箇山地方は、当たり前のように3m以上は積もるそうです。
道中の景色は雪がミルフィーユのように層になっていました。
集合場所に到着するとご覧の通りの雪!これでも少ないそうです(^_^;)
晴天にも恵まれ、空気も澄んで心地がよいです。
紙漉きの現場体験では、まず悠久紙についての説明をして頂きました。
その中で何より驚いた事が下記の大福帳。
一番左が最近作ったもの、真ん中と右は…いつ頃作られたか分かりますか?
そう、大正6年というと1917年なので100年経っているんです。
実際に触って中身も見させて頂いたのですが、これまた驚くほどしっかりしています。とても100年経っているとは思えないほど和紙の自然な白さも保たれています。普通これだけ古い大福帳だと黒ずんでいて、周りがボロボロなので触るのも怖いくらいですよね。
※以前のブログ記事で、火事から大福帳を守る驚きの方法をご紹介しています。
耐久性のある美しい和紙を作るには、いかに良質な和紙繊維を傷めず原料を処理出来るかが大切なのだそうです。なぜこんなに耐久性がある和紙が作れるのか、今回その理由を垣間見る事が出来ました。
その工程の一つ、雪晒し(ゆきさらし)の現場を見学させて頂きました。
雪深い道を歩いていきます。奥に鳥居が見えますが、その長さでどれだけ雪が積もっているのか分かりますね。はしゃいでジャンプすると、簡単にひざ上くらいまで埋もれてしまうので、ゆっくり慎重に歩いていきます。
こちらが雪晒しをまさに行っている所です。
いくつかの工程を経て、楮(こうぞ)表皮の黒皮部分を手作業で削りとったあとに、写真の様に雪の上に処理した楮を広げて、1週間から2週間ほどひっくり返しながら晒していきます。太陽の紫外線によって、徐々に葉緑素が抜けて天然の白色が得られます。
- 葉緑素とは:植物の葉緑体の中に含まれる緑色の色素のこと。
ちなみに雪晒しには雪がとても重要です。
雪の表面は冷たく、そこに原料を置くことで腐らないという意味があります。
ただ、雪が降ると晒している原料が埋もれてしまいどこにあるか分からなくなる事と、雪の中は意外と暖かい(かまくらの原理ですね)ので、原料が腐ってしまう為、傍にあるワイヤーに吊るして雪晒しを続けます。
葉緑素が抜けてくると、上記写真の様にあきらかな違いが出てきます。
悠久紙ではこのようにして自然な白さを出す工程を行っていますが、市場で出回っている和紙の中には「さらし粉」という化学薬品を使って一気に白くしてしまう方法を行っているものもあります。簡単でコストも大幅に抑えられますが、原料自体にもダメージを与えてしまうので何百年、何千年と生きる和紙にはなりません。
雪晒し見学のあとは工房に移動しました。
こちらでは原料を煮てアク抜きを行ったものに残っている黒皮や汚れ等を一つ一つ手作業で取り除いている所です。気の遠くなるような作業ですが、この工程を適当にしてしまうと和紙を漉いた際に黒い部分が入ってしまうので細かなものも見逃すことなく行っていました。
この部分も市場に出回っている和紙の中には原料を煮る段階で苛性ソーダという薬品を使って黒皮などの汚れを溶かして処理されているものがあります。そうすることで、黒皮を手作業で取り除く工程を省く事が出来てコストを抑えられますが、やはり原料の繊維も傷んでしまいます。もちろん、悠久紙では薬品は一切使用せず作られています。
悠久紙(五箇山和紙)では、全ての行程において化学薬品を一切使わず和紙の繊維をそのままに和紙を漉いていました。そうやって出来上がった和紙は経年によりさらに白さを増していくので、最初にご覧頂いた大福帳の経年を感じさせない状態が納得出来ますね。
このように良質な原料の栽培から手漉きまで一貫して行っている所は全国的にも非常に珍しく、海外のからの原料に頼らざるを得ない産地も少なくありません。
作られた悠久紙は、桂離宮の修復、名古屋城の本丸御殿修復、勝興寺の修復、ヨーロッパの絵画修復、などその他さまざまな場所で重要文化財の修復用紙として使われています。これらの修復用和紙は、最低でも500年耐えうるものである事が求められるそうです。とても貴重な和紙ですが、お土産品や和紙小物など用途によっては原料の種類や配合を変える事でコストを抑えた和紙も漉いています。
悠久紙の宮本さんともお話しさせて頂きましたが、世の中に出回っている和紙風の和紙が決して悪いのではなく、和紙の正しい知識としてそれぞれの用途に合わせて最適なものを使う事が大切ですね。私たちも和紙を専門に取り扱う者の責任として、お客様に和紙の正しい知識をお伝えしていくと共に、ご要望や用途に合わせた和紙をこれからもご提案していきます。
今回、和紙制作現場の一部を見学出来てとても勉強になりました。
和紙の世界は奧が深いので興味の種は尽きません。
お声がけ頂いた悠久紙(五箇山和紙)の宮本さん、スタッフの方々有難うございました!
「悠久紙」東中江和紙加工生産組合
939-1905 富山県南砺市東中江582
電話:0763-66-2420
※見学は要申込み
これまで伺った悠久紙の見学体験記事
「悠久紙(五箇山和紙)の楮蒸し・楮はぎ見学体験」
悠久紙の原料となる地元でとれた楮の原木を蒸して、皮をむく作業を見学体験してきました。
楮を蒸すと、芋を蒸したような香りがするんですよ。
「悠久紙(五箇山和紙)の楮の芽かき体験」
和紙の原料となる楮が成長の段階で出てくる「余分な芽」を摘み取る作業を見学体験してきました。
「 ご質問・お問合せ 」
商品に関するご質問やご相談など、お気軽にお問合せください。
フォームやメール、お電話、ファックスでも受付ております。
お問合せページはこちら>
コメント