いつの間にか和紙についてしまったシワ。どうすればいいかお困りではありませんか?
そのシワの取り方を、シワの程度に合わせて2つの方法をご紹介します。
どちらも和紙を専門に取扱う弊社が、実際に行っているやり方です。
とても簡単なので、ぜひ実践してみてください。


はじめに
今回ご紹介する方法は「和紙のシワ伸ばしに特化した内容」です。洋紙(コピー用紙、ポスター、画用紙、写真など)にはお使いいただけない内容となっております。予めシワになったものをご確認の上、お試しください。
シワの程度により、2種類の方法を使い分けます。
「軽度のシワ」
紙が折られてはおらず、波打っていたり、くしゃっと丸まったりした状態のシワです。軽度のシワは、まずアイロンを使った方法を試します。もしうまく伸びない場合は、下の「重度のシワ」の方法を試してみてください。
「重度のシワ」
紙が一度折られて、くっきりとした折り筋や、折り目がついてしまった状態のシワ、または上記のアイロンだけでは取り切れなかった細かなシワはこちらです。 この場合は、水と刷毛を使った方法が効果的です。
ただし、すでに墨やインク、絵の具などで何か書かれていて水に滲む恐れがあるものや、美術品、大切な作品には、専門的な技術が必要となるため、今回ご紹介する方法はお控えください。こうした和紙のシワ伸ばしは、お近くの表具屋(経師屋)さんにご相談ください。
【注意点】
- しっかりと折り筋がついてしまったものは、ご紹介する方法を試しても効果が得られない場合があります。
- 紙質や厚みによっては、うまくシワが伸びない場合があります。
- 自己責任をご了解の上で行ってください。大切な作品や美術品などのシワ伸ばしをお考えの場合は、お近くの表具屋(経師屋)さんにご相談ください。
軽度のシワを伸ばす/用意するもの:アイロン

毛足の短い絨毯に敷き紙を重ねると、適度なクッション性で綺麗に仕上がります。
アイロンで和紙のシワを伸ばすと聞くと、驚かれるかもしれません。この方法は最も手軽に行える方法で、弊社では出荷前の和紙のシワ伸ばしにもアイロンを使っています。適切な温度でアイロンがけを行うことで、ほとんどのシワが綺麗に伸びます。
作業台(アイロン台)の準備
アイロンがけ用の台としては、程よい柔軟性があるものが最も適しています。テーブルに布を2~3枚置くか、もしくは毛足の短い絨毯の上に布などを置くと良いです。もちろんアイロン台でも可能ですが、中にはフカフカすぎるものがあるので注意してください。
ちなみに弊社では、毛足の短い絨毯の上に、障子紙ほどの厚さの和紙を2枚重ねて置いてアイロンをかけています(上記画像を参照)。
実際に軽度のシワを伸ばしていきます
今回サンプルとして使用する和紙は、国内で最も流通量の多い楮(こうぞ)和紙です。
下の写真のようにシワシワになることはあまりないと思いますが、違いが分かりやすいようにシワを入れてみました。

1.かけ方の基本
アイロンがけの基本は、和紙の裏面からかけます。これは和紙によって(ごく一部ですが)アイロンをかけると表面に光沢が出てしまうものがあるためです。
光沢が出る(出そうな)和紙や、直接アイロンをかけるのが心配な場合は、和紙の上にハンカチのような薄い布(当て布)をかぶせ、その上からアイロンをかけることで回避できます。
2.温度の目安とコツ
- 薄手の和紙の場合:アイロンの温度は中温を目安に
- 厚手の和紙の場合:アイロンの温度は高温を目安に
アイロンをかけていきます。薄手の和紙でも高温でさっとかければ早くシワが取れますが、初めての場合は中温をおすすめします。また、アイロンをかける際に、少し体重を乗せるように圧をかけると綺麗に仕上がります。取り切れない場合は、アイロンの温度を少し上げて、もう一度行ってみてください。
3.仕上がりの確認と比較
さて、最初に紹介したシワシワの和紙ですが、比較のため左半分のみアイロンをかけてみました。アイロンだけでもここまで綺麗になります。

軽いシワであればこれでほとんど綺麗になります。しかし今回のようなシワシワになったものだと、細かなシワが取れずに残っているのが分かります。

こういう細かなシワも綺麗にしたい!という場合には、次の「重度のシワを伸ばす」方法が効果的です。
重度のシワを伸ばす/用意するもの:水、刷毛、アイロン

刷毛はほどよいコシのあるものであれば、安価なもので十分です。
和紙は水ととても馴染みやすく、シワを伸ばす際にもっとも効果的なのは、和紙に一度水を染み込ませてシワを伸ばす方法です。仕上げにアイロンがけを行うことで、より綺麗に仕上がります。
この方法は水を使用します。何か滲むようなものが書かれている和紙、薄手の和紙、パルプが主原料の紙(書道用半紙など)は、にじみや破れの原因となりやすく、取り扱いには専門的な技術と経験が必要です。
初めての方がこの方法で行うのは非常に難しく、失敗のリスクが高いため、お控えください。大切な作品や美術品は、お近くの表具屋(経師屋)さんでご相談されることをおすすめします。
下の写真のように、これくらいシワがついてしまうと、アイロンだけではなかなかシワを取りきれません。今回は、重度のシワを伸ばすということで、最初のものよりも細かくシワを入れ、折り目もしっかりつけてみました。

実際に重度のシワを伸ばしていきます
1.アイロンでシワを伸ばす
初めにアイロンをかけて、取れるシワだけ取っていきます。これを行うことで後の作業が楽になります。これでもかという程、折りシワ・揉みシワを付けていたので、下の写真をご覧いただくと、やはりアイロンだけでは大きなシワは取れますが、細かいシワや折り筋は取り切れていないのが分かります。


2.水を含ませた刷毛で撫でる
アイロンがけが終わった和紙全体に、刷毛で水をたっぷり与え、ムラなく十分に浸透させます。あくまで水を染み込ませることが目的ですので、刷毛は表面をさっと撫でるようにし、力を入れずに行ってください。水を与えると、和紙の色が半透明に変化するのが分かります。
この工程は、霧吹きでも行えます。和紙全体がまんべんなくしっかりと濡れるまで、水を吹きかけてください。

次の作業はこの出てきたシワを伸ばしていきます。この時に和紙の表面をこすって伸ばすのではなく、下の写真のように和紙の端を一旦持ち上げ、水を染み込ませた刷毛で優しく撫でながら伸ばしていきます。もしこすってシワを伸ばしてしまうと、和紙の表面が毛羽立ってしまう場合があります。押し付けずにそっと行ってください。
持ち上げる角度は、慣れるまでは下の写真のように45度くらいを目安にしてください。和紙を引っ張りすぎると破れる可能性があるので、ほんの少しだけ張る程度にしてください。

シワが残る場合は、再度和紙を少し持ち上げて取り除きます。
ここまでの工程が済むと、このような感じで細かなシワも綺麗に取れています。

3.窓ガラスなどに水で貼る
あらかじめ窓ガラスを綺麗にしておいてください。次に、机からゆっくりと和紙をはがし、下の写真のように和紙を窓ガラスに貼り付けます。水がついているので、そのままでもしっかりと貼り付きます。この時も刷毛に水を含ませ、中心から外側へ撫でるようにして、空気とシワを完全に取り除いていきます。
窓ガラスに貼ることで、シワが伸びているか確認することができます。 その後、このまま自然乾燥させます。
- なぜ窓ガラスに貼るの?:和紙は濡れた時に伸び、乾く過程で元に戻ろうと「縮む」性質があります。ガラスに水貼りすることで、その縮もうとする力に逆らって「テンション(張り)」がかかり続け、シワが自然と伸びやすい状況をつくることができるのです。
濡れた状態で擦りすぎると和紙を傷めます。撫でるときは優しく行い、難しい場合は無理せず、そのまま乾燥させてください。

窓ガラス以外に、アクリル板などでも代用できます。貼り直さずに、そのまま机の上でも乾かすことは可能ですが、窓ガラスの方がシワの伸び具合が確認しやすく、乾きやすいというメリットがあります。ただし、コーティングされていない木製の机や板は、木のアクが出て和紙を汚す恐れがあるため使用しないでください。
4.仕上がりの確認
乾いても窓ガラスにくっついている場合もありますが、大体の場合は乾くといつの間にか落ちています。乾燥させると、下の写真のように綺麗にシワが伸びているのが分かります。


今回はこのガラスに水張りするだけでシワが消えたのでしていませんが、その後、仕上げにアイロンがけを行うと完璧です。ただし、アイロンをかける場合は和紙が完全に乾いてからかけてください。半乾きでかけると、和紙にヒヨリ(波打ち)が発生しやすくなります。
最後に
和紙のシワを伸ばす方法は実は奥が深く、使用する和紙の種類や、墨などで文字が書かれているかどうかなどによって方法がいくつかあり、専門的な知識と技術が必要な場合もあります。作品などのシワ伸ばしには、伸ばすだけでなく美しく見せたり、欠損している部分を補修してくれる「裏打ち加工」や「修復」を専門とする業者さんもいらっしゃいます。難しいと感じたり、自信がない場合は、プロに相談することも大切です。
今回ご紹介した方法は、弊社ショップ&ショールームで、お客様からいただいたご質問を基に、初めての方でも簡単に和紙についたシワを伸ばすことができる方法をまとめたものです。その他、弊社ウェブサイト内の「和紙に関するよくある質問集」でも、様々な和紙に関するご質問にお答えしておりますので、ぜひご活用ください。
もしやり方が分かりにくい点など、ご意見がございましたら、お気軽にお問い合わせください。
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