手漉き和紙のフチには耳(繊維がモサモサっと出ている感じ)がついていて、とてもきれいですよね。この耳は和紙を漉いた時にフチ部分が薄く仕上がるもので、他の素材には無い和紙の魅力の一つでもあります。
ところで皆さんは和紙をカットする際、何を使っていますか?
カッターやハサミでカットされる方がほとんどではないでしょうか。和紙は自然な温かみがあるので、従来のカット方法でも十分に和紙の魅力が伝わります。
今回は、さらに和紙の魅力を引き出す「耳付に仕上げるカット方法」を和紙専門店の弊社がお教えいたします。欲しい寸法の和紙がないときにも、この方法でカットすることで美しく仕上げることができます。やり方はとっても簡単。ご存知の方も改めてご覧頂けたら嬉しいです。
耳付和紙とは?
耳付(みみつき)とは、手漉きで漉いた時に四辺に自然とできる薄い繊維の重なりのことを言います。
機械漉き和紙でも耳付きで仕上がりますが、手漉き和紙と製造方法が異なるため、比べてみると耳の出来方が少し違うことが分かります。また、機械漉き和紙は、製造時の巻取り工程で長辺を切り落とすため、実際には二辺のみが耳付きとなります。


以下の記事では、手漉き和紙と機械漉き和紙の違いとそれぞれの魅力を詳しく解説しています。和紙についてより深く知りたい方は、ぜひご覧ください。

はじめに
下の比較写真をご覧ください。どちらも同じ楮(こうぞ)和紙ですが左側のものは綺麗にカットされていて、右側のものは和紙の繊維が出ていますね。
左側の和紙はカッターでカットしたもの、右側の和紙はこれからお教えする「水切り」という方法でカットしたものです。水切りした方が、遠くから見ても「和紙」らしさが際立ちますよね。

早速水切りに挑戦してみましょう。
まずは、基本の直線水切りから始めていきます。
用意するもの
- 水(コップなどに入れて下さい)
- 筆(細筆が理想的ですが、太筆でもOKです)
- ヘラ(無い場合は、先がとがっていない棒状の物)
- 定規
- カットしたい和紙
水切りのやり方
Step1:ヘラでスジをつける
カットする部分に定規を置き、ヘラで和紙にスジをつけます。
このスジの付け方が水切りの仕上がりを左右するので、はじめての方はブログ下段の「Q&A」などを参考にしながら行ってください。ポイントは、傷をつけるのではなく、押し跡をつけるイメージで行うのがコツです。

スジをつけると、下の写真のようにうっすらと線が確認できます。

Step2:つけたスジに筆を使って水をしみ込ませる
水をつけた筆でスジをなぞっていきます。厚みのある和紙の場合は、たっぷりと水を付けるようにしてください。Step1でつけたスジに水が染み込みやすくなっていて、ラインがはっきりと現れます。


Step3:スジに沿ってちぎる
スジに沿って、ゆっくりとちぎっていきます。
もし切りにくい場合は定規をガイドにして切ると、切り口がガタつくのを防ぐことができます。

綺麗に切れました。

Step4:仕上げに毛先を整える
カット後に和紙の細かい毛羽立ちを指先で整えて自然乾燥させると、とてもきれいに仕上がります。

番外編/水切りアレンジ
直線だけでなく、型を用いることで円形など様々な形状の水切りも作成可能です。型は、厚紙や硬質シートなどにコンパスで線を描いた後、ハサミで切り抜くことで簡単に作ることができます。星型や猫型など、なんでも作れるので、是非試してみてください。

下の写真は、水切り和紙を使用した水玉模様のデザイン和紙を制作している様子です。無地の和紙だけでなく、染めた和紙を水切り加工で円形にし、一枚ものの和紙に貼り合わせて仕上げました。



今回ご紹介した水切り和紙の技法を応用すれば、手紙やカード、インテリアなど、様々なものに活用できます。アイデア次第で、あなただけのオリジナル作品も作れます。ぜひ、色々な場面で水切り和紙を活用してみてくださいね。
Q&A
- どれくらいの強さでスジを付ければいいのですか?
-
和紙には様々な種類や厚さがあるので一概には言えませんが、
- 薄手の和紙の場合:まずは弱めにスジを付けて下さい。
強くしすぎるとそれだけで和紙が切れてしまう場合があります。 - 厚手の和紙の場合:強めにスジをつけてもOKです。
ただし極端に強すぎると繊維が切れてしまって綺麗に出てきません。
逆に弱すぎるとちぎるのに一苦労します。
いずれの場合も一度目立たない所で水切りを試してみて、一番きれいに毛羽立ちが出る強さを見つけてみてください。
- 薄手の和紙の場合:まずは弱めにスジを付けて下さい。
- 水切りしたところがガタガタになってしまいました。
-
ヘラで押し跡をつける強さが弱い事が考えられます。
もう少し強めに跡をつけてみてください。
適度な強さで押し跡がつけられれば、まっすぐ綺麗に水切りが出来ます。 - なぜ水を付けると綺麗にちぎれるのですか?
-
元々和紙の繊維は親水性のセルロース繊維から出来ています。
繊維同士の結合が水の分子によってほどけやすくなり、つけたスジがガイドの役割となり綺麗にちぎれるのです。
スジを付けないで行うと、繊維同士の結合が弱い部分の方が破れやすいため、水を付けても思い通りにちぎれなかったりします。 - ちぎれやすい方向、ちぎれにくい方向があるのはなぜですか?
-
そこに気付いた方は凄いです!これを「紙の目」と言います。
殆どの紙製品には縦目と横目があり、和紙も例外ではありません(一部を除く)。身近な新聞紙を用意して、縦と横で裂いてみてください。
不思議な事にまっすぐ切れる方向と上手く切れない方向がありますよね。紙の繊維が製造の過程で一定の方向に揃っている為、縦横でちぎれやすい、ちぎれにくいが出てくるのです。
- 何度やっても上手く毛羽立ちが出ないのですが。
-
水切りをしてみたのに、毛羽立ちが出てこなくてカッターで切ったような感じできれてしまったという場合、原因として考えられるのは…
- ヘラでスジを強くつけすぎている:もう少し弱めにスジをつけてみてください。
- スジをつける物の先端が尖っている:和紙の表面に傷をつけてしまうとうまく毛羽立ちが出ずに切れてしまいます。先のとがっていないもので行ってください。傷をつけるのではなく、押し跡をつけてあげる感覚です。
いずれの場合も出てくるはずの繊維まで切れてしまうので、毛羽立ちがうまく出てきません。 - 和紙原料の問題:和紙の原料の種類によって繊維の長さが違う為、思ったように出てこない場合があります。
楮(こうぞ)、三椏(みつまた)、雁皮(がんぴ)の主な和紙原料の中で、一番繊維の長い楮がより繊維が出やすくなります。
また原料を混合して作られている和紙もあるので、和紙を購入されるお店でご相談して頂ければ丁寧に教えて頂けると思います。
皆さん、うまく水切りは出来ましたでしょうか。もし何か分からないことがあれば、いつでもお気軽にお問合せください。今後も和紙に関して「こんな事教えて」という声がありましたらブログでアップしていきます。また見て下さいね。
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