前回の「和紙と洋紙の違いとは-日常にある紙」続きの回になります。
今回は、和紙ってどんなものなのか、洋紙との違いを踏まえながら解説していきます。
一目でわかる!和紙と洋紙の違い
和紙:伝統の技が生む繊細な美しさ
- 繊維が太く、強度が高い(和紙原料の特徴)
- 長期保存に向いている(日本で最古の和紙は702年(約1300年前)のもの)
- 原料コストが高く、量産もしにくいため、高価である
和紙繊維の長さ(平均):
- 楮(こうぞ):7.3mm
- 三椏(みつまた):3.2mm
- 雁皮(がんぴ):5.0mm
和紙は、洋紙と比べて繊維が長く強靭なため、薄くても強い紙を作ることができます。
楮、三椏、雁皮などの靭皮繊維を原料とした、長く丈夫な繊維でできた紙です。繊維同士が絡み合い、強度の高い紙質を形成するため、伝統的な製法で作られた和紙は長期保存性にも優れています。現存する最古の和紙は702年(約1300年前)のもので、その耐久性の高さを証明しています。しかし、原料の栽培や処理に手間がかかり、量産も難しいことから、高価な紙となります。
洋紙:時代のニーズにこたえる進化
- 繊維が短く、強度が低い(洋紙原料の特徴)
- 変色しやすい(主に黄変、まわりがボロボロになってくる等)
- 原料コストが安く、大量生産もしやすいため、安価である
洋紙繊維の長さ(平均):
- 針葉樹パルプ:2.3mm
- 広葉樹パルプ:1mm
- 木綿パルプ:1.45mm
- バガス(さとうきび)パルプ:0.9mm
洋紙は、和紙と比べて繊維が短いため、表面が滑らかで印刷に適した紙を作ることができます。
木材パルプを原料とする洋紙は、短い繊維で構成されているため、引張強度や耐破裂強度が低いという欠点があります。しかし、機械化による大量生産が可能で、和紙原料と比べて低コストで原料調達もできるため、安価な紙の製造に適しています。製造方法によるpH値の酸性化により、黄変や経年劣化しやすい欠点もありますが、中性紙やアルカリ紙などの開発により、この問題を克服した洋紙も存在します。
和紙と洋紙の違いを深掘り
和紙と洋紙の原料の違い
和紙の原料とは?
和紙の主な原料は「楮(こうぞ)・三椏(みつまた)・雁皮(がんぴ)」の3種類です。これらの植物の靭皮(じんぴ)と呼ばれる部分を使用します。
Yahooの百科事典によると、和紙は次のように定義されています。
日本でつくられる手漉(す)きの紙をいう。木材パルプを原料として機械によって量産する洋紙に対し、和紙は植物の靭皮(じんぴ)繊維をとってすべて手作りで漉くのが特徴となっている。
Yahoo百科事典より
靭皮(じんぴ)とは、甘皮(原料の表皮をめくったすぐにある部分)のことです。構造を支え、外部からの刺激から守るために繊維質が強く発達しています。原料を蒸した後、手作業で皮を剥ぎ、その内側にある白っぽい部分が和紙の原料となります。残った芯や表皮は、原料を煮る際の薪(まき)として無駄なく活用されます。
楮蒸しと楮剥ぎの作業風景は、下記の記事でご覧いただけます。実際に見てみると、想像以上に大変な作業であることが分かります。
洋紙の原料とは?
洋紙の主原料はパルプで、大きく分けて下記の4種類があります。木材パルプはさらに製法によって機械パルプと化学パルプに分けられます。洋紙は量産やコストを抑えるために、様々な薬品を用いて製造されています。
- 木材パルプ(針葉樹・広葉樹の幹を原料としたもの)
- 非木材パルプ(サトウキビや竹などをはじめとした植物を原料としたもの)
- 古紙パルプ(使用済みの紙を原料として再利用したもの)
- 合成繊維パルプ(再生繊維であるレーヨンや、化学合成繊維のビニロンなどを原料としたもの)
機械パルプは、木材を機械的にすりつぶして繊維を取り出したものです。一方、化学パルプは、木材を薬品で処理してから繊維を取り出したものです。
下記ページでは、和紙と洋紙原料をそれぞれ100としたときに、どれくらいA4サイズの紙が出来るか解説しています。非常に興味深い内容ですので、ご興味のある方は是非ご覧ください。
和紙と洋紙の歴史
和紙の歴史
和紙の歴史は約1400年と古く、610年に朝鮮半島の僧侶によって日本に伝わったとされています。平安時代には貴族の間で広まり、鎌倉時代から江戸時代にかけて武士や町人にも普及しました。特に平安時代には、日本独自の「流し漉き」という技術が発達し、薄くて丈夫な和紙が作られるようになりました。江戸時代には出版文化が栄え、和紙の需要は飛躍的に増加しました。
現代では、和紙は世界中の美術館での修復作業にも使用され、ユネスコ無形文化遺産にも登録されました。伝統と技術は脈々と受け継がれ、現代においても様々な分野で活用されています。
洋紙の歴史
洋紙の起源は紀元前2世紀頃に遡り、その後ヨーロッパに伝わりました。12世紀頃にはスペインやフランスで製紙工場が設立され、15世紀には活版印刷の発明により紙の需要が急増しました。19世紀に入ると、木材パルプを使用した製紙技術が確立され、大量生産が可能になりました。
日本では、明治時代に西洋から製紙技術が導入され、国内での洋紙生産が始まりました。機械による安価で大量生産が可能になった洋紙に対し、手間のかかる手漉きの和紙は徐々に主流から外れていきました。
- 2世紀とは:西暦101年から西暦200年までの100年間
- 12世紀とは:西暦1101年から西暦1200年までの100年間
- 15世紀とは:西暦1401年から西暦1500年までの100年間
- 19世紀とは:西暦1801年から西暦1900年までの100年間
和紙の定義・捉え方の違い
Yahoo百科事典では「日本で作られる手漉き和紙をいう」と定義されています。
これは、西洋から伝わった洋紙と区別するためにつけられた、和紙の定義として最も古いものです。
しかし、定義は時代とともに変化していくものです。
明治以降の改革で和紙の機械化が進み、和紙原料以外にもパルプ(洋紙の主原料)などの木材原料が使われるようになりました。そのため今度は「手漉き・機械漉き」「国産原料・海外産原料」「純粋な和紙原料のみを使用しているか」なども区別する必要が出てきたため、定義は時代背景や考え方によって徐々に変化していきました。
一つの定義の指針として、日本工業規格(JIS)では「和紙」を以下のように定義しています。
このJISにおける和紙の定義は、かなり含みのある表現であることが分かります。
我が国で発展してきた特有の紙の総称。手漉き和紙と機械漉き和紙とに分類される。本来は、コウゾ、ミツマタ、ガンピなどの靭皮繊維にねりを用い、手漉き法によって製造された紙を指したが、近年では、パルプを原料として抄紙機で抄造されたものも含む。
紙・板紙及びパルプ用語(JIS P0001)1998年より
- ねりとは:和紙の原料となる繊維を均一に水中へ分散させ、互いに絡み合わせやすくする粘液のこと。
- 抄紙機(しょうしき)とは:紙を漉く機械。いわゆる機械漉きのこと。
弊社が考える和紙の定義
もしお客様から「和紙の定義は?」とご質問をいただいた場合、弊社では以下のようにご説明しています。
- 基本的な定義:和紙原料を使って、国内で手漉き・機械漉きされた紙
- より詳細な定義:国産の和紙原料を100%使用し、薬品など使わず(靭皮繊維を傷めずに)手漉き・機械漉きされた紙
なぜ手漉きだけでなく、機械漉きも含んでいるのかというと、和紙を専用に漉く機械は、元をたどれば手漉き職人さんが改良を重ねて作り上げたものだからです。例えば、下記の弊社ブログ記事で紹介している灰煮障子紙は、弊社が考える詳細な和紙の定義に合致したものです。原料と製法にこだわることで、上質な和紙を作ることができるのです。
これはあくまでも弊社の考える和紙の定義です。和紙の定義は、捉え方や考え方によって様々です。まずは、和紙の定義には様々な考え方があることを知っていただけると幸いです。
それって本当に和紙!?
世の中には沢山の「和紙」と呼ばれるものが販売されています。
しかし、中には和紙と謳いながら洋紙の原料となるパルプのみで作られた製品も存在します。
他にも和紙の原料は入っていても数パーセントで、殆どパルプしか入っていないものもあります。パルプの配合比率によって簡単に分かる物から、私達でも分からないものまで様々です。しかし、上記で挙げたものは、先程ご紹介した日本工業規格(JIS)の和紙の定義によれば、すべて和紙と呼んでも間違いではありません。
きっと、このブログ記事をご覧いただいている方の中にも「そもそも和紙ってなに?」と疑問に思って辿り着いた方もいらっしゃるのではないでしょうか。これも、日本における和紙の定義があいまいであることの弊害と言えます。その結果、本来の和紙がどのようなものであるのか、その本質が不明確になってしまっている現状があります。
「本物を漉いても高いから売れない」という漉き手さんの声を、私達は間近で聞いてきました。弊社では、こうした状況を打開するため、先に述べた独自の和紙の定義を定めました。お客様が迷うことなく、用途に合わせた和紙を手にすることができるように。そしてそれが結果的に、こだわって和紙を漉いている漉き手さんを守り、日本の和紙文化を守ることにつながると考えています。
白くて綺麗な和紙には、こんな秘密があった
化学薬品を使わずに白くて綺麗な和紙を作るには、実は大変な手間とコストがかかります。
詳細は他のサイトでも詳しく載っているので割愛しますが、漂白剤などの化学薬品を使って原料を白く脱色して漉いた和紙もあります。一見すると、これらの和紙は白くとても綺麗に見えますが、長期的な保存には適しません。
弊社ショールームにご来店されるお客様には、必ず使用用途をお伺いしています。趣味で手軽に使いたい場合であれば、もちろん問題ありません。しかし、書画や版画など、長期的に保存したい作品の場合は、化学薬品を使わずに自然な白さを生かした和紙をおすすめしています。
なぜ漂白された和紙がダメなの?
漂白した原料は繊維も傷み、pH値も酸性で、長期保存には向かない和紙になるからです。一方で、漂白剤などを使わず手間隙かけて作られた本物の和紙は、靭皮繊維(和紙の主原料となる部分)の痛みも少なく、pH値も中性です。
ちなみに本物の和紙の耐久性は約1000年以上であるのに対し、pH値が酸性の洋紙は100年でボロボロになり、中性の洋紙でも300年ほどしか持ちません。このことからも、紙を構成する繊維の性質とpH値がいかに重要であるかが分かります。下記の記事では、和紙の耐久性を証明する一つの例として、100年以上前に作られた大福帳をご紹介しています。本来の和紙は、経年によって葉緑素が抜けて自然と白くなっていきます。
本物の和紙でも起こりうる茶色いシミ問題
そのほか漂白されていない和紙であっても、数年で茶色っぽいシミが出てくるものもあります。
様々な理由がありますが、使用する原料や製造工程、保管方法などに問題があります。
例えば、原料に含まれる油脂分が多い場合、経年によって茶色いシミが発生することがあります。海外産の原料は、国内産のものと比べて油脂分が多い傾向にあります。ただ、国内産であっても、収穫時期によって油脂分の量に多少の差が生じる可能性はあると弊社では考えています。
保管方法については、湿度の高い所に置いておくと、フォクシングとよばれるカビによる影響をうけて、同様のシミが発生することがあります。フォクシングが発生してしまうと、除去することが難しくなるので、日ごろの湿度管理が大切になってきます。
長期保存に向いた和紙の選び方
もし、長期保存を目的とした和紙をお探しの方は「国内産原料100%を使用し、化学薬品を一切使用せず漉かれた和紙」かつ「数年ねかせた」ものをお求めいただくことをおすすめします。数年ねかせることで、和紙内の水分量が安定することや、原料や製造法に由来するシミが発生していないか確認することができます。原料や製造法に関しては、取扱店舗ですぐに確認出来ない場合もありますが、通常お願いすれば教えてくれます。
まるでワインのように経年によって熟成されていく和紙。漉いて間もないものよりも年数が経った和紙の方が価値があるとされ、書道をされている方などは書き味も良いと好んでお求めになる程です。工程を省いた和紙は、数年で確実に和紙の表面に結果として出てきますのでご注意下さい。
和紙の話になると、どうしても長くなってしまいます。長々とお付き合いいただきありがとうございました。
さて次は、このシリーズの最後の回になります。次回もお楽しみに。
【和紙と洋紙の違い解説シリーズ 全3回】
第1回「日常にある紙」編
第3回「和紙と洋紙の見分け方」編(最終回)
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